LIVE REPORT

小雨が止んだ温かな春の夜、田渕ひさ子さん(bloodthirsty butchers / toddles)と後藤まりこさん(ミドリ)のライブが弁天湯で行われた。19時過ぎ、会場のライトが消え、飲み物を片手に談笑していたお客が静になる。
まず壇上には、田渕さんが一人で登場。ワンポイントのみの黒いTシャツに茶色のパンツ、ボブカットでギター片手に現れた彼女は、舞台壇上の椅子に座ると、無言でお辞儀をした。シンプルでボーイッシュなスタイルは、洋服だけに留まらない。素振にも媚びが無いのが気持ち良い。拍手の中、いきなり、曲が始まる。
田渕さんの力強く伸びる声が、真っ直ぐ客席に届く。正面から向き合って、届かせようという気持ちがこもった声に思わず目を奪われる。一曲終わって、次ぎの曲に向う際、ただ曲名のみ紹介して演奏。2曲目が終わってやっと、「ありがとうございました」とMCが始まった。「一人でやるのが初めてなので、めちゃくちゃ緊張しています。」と笑い、客席からは男性に混じって小さな子供からも「頑張れー!」の声が飛ぶ。舞台と客席の近い弁天湯の会場で、濃密な時間が共有されていく。
すぐに、会場は羽織ってきた上着が暑くなる位の熱気になった。背広姿の男性客がジャケットを脱ぎネクタイを緩め、体を揺らす。お客は、約7割が男性だ。若者から、白髪の男性も見かけられる。仕事帰りに寄ったのか、背広姿のかたも多く観られた。飲み物や軽食を片手にゆったりと聴く熟年のご夫婦らしき観客や、小さな子供たちも来ていて、銭湯らしく世代を超えた人々が会場で一心になっているのだった。
4、50分の演奏が終わり、田渕さんの「ありがとうございました!」の声に続き、入れ替わりで後藤が壇上に上がる。
赤のタンクトップに、レトロな花柄プリントのスカートの後藤さん。こちらは女性らしい格好が艶かしい。髪形は田淵さんと同じくボブだが、髪飾りの花がエロティックだ。暗闇に二の腕が白く光る。着席して発せられた「ねこねこ♪」という声に会場の空気が蕩けた。後藤さんの、甘く、とろとろとした声が鼓膜にからまり、思考が止まりそうになる。そうかと思うと、曲の終わりがわからないまま寸劇が始まり、ギターをぽろぽろ奏でながら、「未来の自分」との会話が壇上で繰り広げられるのだった。聞いていると、いつの間にか曲に移っている。足で取る拍子は、次第に地団駄踏むように激しくなり、彼女のリズムが会場を飲む。後藤さんは時に唄いながら下を向き、自分に確認しながら思いを声にするような姿だ。2回目のMCでは、客席の女性客の恋愛を聞いてそのまま唄にしていく。聴く人の思いがそのまま会場で唄になり、客席に浸透していった。脱衣所の少し広いスペースでは、観客が床に座りこみ、呑みながらリラックスして耳を傾ける。
演奏が終わった後、壇上には田渕さんと後藤さん。二人によるMCが始まる。二人とも、自分のことを「ぼく」と呼んでしまったり、4人兄弟だったりする共通点が判明していき、女子失格(?)発言も出ながら盛り上がる。最後には、NUMBER GIRLの「透明少女」を二人で歌うという夢のコラボレーションが実現し、興奮のラストを向かえた。再アンコールを求める手拍子に、
「また今度があると思うので」
と素敵な予言を残しながら笑顔で壇上を去る二人の後姿。
女子の格好良さを体現する二人を目撃した一夜は、会場を共にした観客の思い出にずっと残るだろう。

ライブ終了後の打ち上げには、ソロライブを記念して、サプライズで田渕さんと後藤さんの名前入りの大きなケーキが登場した。真っ白いクリームに覆われた綺麗なデコレーションケーキに感動する田渕さんの瞳が輝く夜だった。
ライブレポート/田中みずき